家づくりの全体像

家づくりというと、
「延べ床面積100㎡で2階建ての家を作る」というイメージしか
ないかもしれません。
最初はそれで良いのです。リビングがあってお風呂があって、洗面室、トイレがあって、
キッチンはこんな感じで、子ども部屋がふたつあって寝室と書斎がある・・・
とこんな感じです。
施主のイメージが、住宅会社が提案するイメージと同じであれば
こんなに幸せがことはありません。
しかし、家づくりというのは、最初は単純なイメージでも
考えを進めていくと、いろいろな「こだわり」と「好み」が頭の中に浮かんできたりします。
また住み始めは良かったが、時間が経つと、季節が変わると
「こんなはずじゃなかった」とか「ああすれば良かった」とか後悔することも出てきます。

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家づくりの「コスト」と「工事」の謎を明らかにします

Craftsman(クラフトマン)は、家づくりは「大きなプロモデル」と考えます。
材料を調達し、技術を使い、小さな工事を順番に施行することで家は完成します。
材料の中には「桧・杉・ヒバ」のようにプレカットされた材料もあれば、システムバスや
システムキッチンのようにブランド化されたパッケージもあります。
工事の工程は、このサイトで示した「A~Oの15大項目」ですが、
大項目の中には10~20の中項目に分かれています。
それぞれ専門的な技術が必要とされる工事です。
Craftsman(クラフトマン)では、このA~Oの15工程は
「一人の親方と数人のスタッフによる工事」の組み合わせであると考えています。
それぞれに「計画」があって「工事仕様書」があり、
あらかじめ決められた手順によって施工されるものです。

また、家づくりが「通常のプラモデルと違う点」は以下の通りです。

1.「建築基準法」「都市計画法」など守るべき法律がある
2.行政の許可が必要な申請・工事がある(申請が必要な土地、水道・電気・ガス工事など)
3.有資格者(建築士や電気工事士など)を必要とする申請書・工事、
  工事業者が指定されること(水道工事など)がある
4.異なる物性の建築材料がいくつもある
 (コンクリート、木材、樹脂・繊維などの化学品など)

一般的には、1~3の手続きが非常に面倒なので「ハウスメーカーや工務店に任せた方がラク」
と考えいる人もいます。しかし、施主は注文住宅の「発注者」でもありますので、
あらゆる手続書や同意書にサインしなくてはならず、時間と知識を要します。
手続きも代行してもらいますので、相応の費用がかかります。

「工事のプラモデル化」のメリットは、それぞれの工事の手順が明確になっている点です。
申請も含めた「A~Oの15工程」を理解しておけば、
家づくりの工程が「見える化」され、見積もりを発注したり、工事の進捗をチェック
する際に大きな力を発揮します。
家づくりは「施主」が直接行うものではなりませんが、工事に何か問題があったときには、
最終的には施主の責任となる場合があり、工事業者に責任を問えないケースもあります。

「家づくり」はとても面倒で時間がかかる

「家づくりは一度では分からない」と言いますが、そもそも人生の中で、
家づくりを何度も経験することはあまりありません。そういう人は少数派です。
なので、初めての家づくりでも「頭の中で何度も検証する時間的余裕を持つ」
「何度もシミュレーションを繰り返す」ことが必要です。
私はそのために「注文住宅の見積もりシミュレーション・アプリ」を開発しました。

家づくりで使われる言葉は「専門用語が多く」また「言い回しも独特であるので」
非常にとっつきにくいところがあります。
営業マンに分からないことを相談しても丁寧に答えてくれなかったり、
見積もりをもらっても「○○一式」で詳細がわからなかったり、
見積もり明細をもらっても、記載されている意味が分からなかったというご経験を
された方も多いと思います。

建築費の明細をすべて書き出すと、それは膨大です。
家づくりの発注者である施主(せしゅ)は「住宅会社の経営者ではない」のですから、
住宅のあらゆる知識を取得するにも限界があります。
熱心に本を読んだりYoutubeを見たりする方も多いですが、何よりも情報が多すぎて消化不良になり、疲れてしまいます。
自動車メーカーの研究所に勤める私の友人は、「家を建てるのに必要な部品は、自動車より多い」
と言いました。
確かにそうかもしれません。何でも知っているに越したことはないですが、
ポイントを絞った情報収集を心がけたいものです。

「住宅工事仕様書」を元に、家づくりの手順とコストを割り出す

このサイトは「家づくりの計画書作成と建築費の算出」を目的にしていますが、
同時に「木造住宅工事の仕様」について丁寧に解説しています。
分かりやすさを優先するために、以下の原則で編集しています。
●「工事の施工順」に沿って記す
●見積もりは一行ごとに記す
●「工事の標準仕様書」に則って解説する
●立地条件によって、必要な工事を示す
●標準的な「住宅性能」のポイントを記す
●施主の「好み・こだわり」の見積もりへの影響
●(日本国内の)地域による違いを示す
ことを心がけています。

住宅工事は、だいたい3カ月~5カ月かかるのですが、
「工事の施工順」をA~Pなどの項目に分けて順番に記すことで、分かりにくいところがあっても、「どの工事の何という施工か?」かを特定でき、どのタイミングで解決しなくてはならないのかを把握できます。

「住宅工事の仕様」と申し上げましたが、本サイトでは、
住宅金融支援機構の「木造住宅工事仕様書」
日本建築学会の「建築工事標準仕様書」
日本建築家協会の「建築工事共通仕様書」
国土交通省の大臣官房官庁営繕部の「公共建築木造工事標準仕様書」
を参考にしております。
どれも毎年発行されている定期刊行物です。
中でも、住宅金融支援機構の「木造住宅工事仕様書」は、かなり昔の仕様書も(昭和26年から)
公開されており、私は、5年おきに過去の仕様書を閲覧することで、住宅工事のトレンド、
大工工事の細かい仕様、今は施工されなくなった工事についても知ることができました。
高度経済成長期から成熟期に入って以後、耐震基準の変遷、高齢者対応住宅、シックハウス対応
から始まった換気義務化、省令準耐火構造、現在まで続く省エネ基準の変遷などが興味深かったです。

どんなに専門的な工事でも、「原材料・部材(費用)+施工技術(工賃)」のものさしで算出する

申し遅れましたが、私はメーカーで「資材の調達、原価計算」を担当しています。
IT系のアプリ開発も仕事でやっていることから、最初は気軽な気持ちで「注文住宅の見積もりアプリ」
の開発を始めました。
が、「住宅工事仕様の歴史と奥の深さ」に触れるにつれ、生来の「もっと知りたい欲」が再燃し、
現在も研究を続けております。
家族・親戚に建築関係者(一級建築士、一級施工管理技士、工務店経営)が多かったことから、
分からないことは聞くこともでき、時にディスカッションしながら開発しました。

さて、さきほど「わかりやすさ優先」と申し上げましたが、
「住宅工事」が「複雑でわかりにくくなる理由」は、専門化が進んでいる点にあります。

「基礎工事のコンクリート」とか「建て方(大工工事)」とか、「断熱工事」「耐震基準」
「内装工事・外装工事」「クロス張り」「電気工事」「空調工事」など、さまざまな職人・
専門家が登場します。
これらの解説を、Youtubeなどで見ていると、知識の海の中でおぼれそうになってしまって、
訳が分からなくなってしまった方もいるかと思います。

このサイトでは、「見積もり」を基準に「工事」の順番にお話ししますので、
いつでも「どの工事についてか」という原点に戻れるようにします。

コスト算出の基本は、工事ごとの「(材料×必要量×単価)+工賃単価×日数」の合計

前置きはこれくらいにして、「建築費の計算」について解説します。

まず、「建築費アプリ・見積りシミュレーション」を開いて、土地の「敷地面積」を入力してください。
例えば「100平方メートル」の敷地面積があるとすると、100平方メートルぴったりに家を建てられるわけではありません。
ここで出てくるのは、「建ぺい率」「容積率」という用語です。

※「建ぺい率」が80%とすると、「80平方メートル部分」に家を建てることができます。
これが「建築面積」です。
次に「容積率」が160%とすると、敷地面積の1.6倍の「160平方メートル」の「延べ床面積」

の家が建てられます。
2階建てですと、1階「80平米」2階「80平米」となります。
まとめると「100平方メートルの土地、80平方メートルの建築面積、160平方メートルの

延べ床面積」となります。
これは、都市計画法によって、各自治体で定められています。

家を建てようとしている土地が、「中高層専用地域」なのか「商業地域」なのか、
そういったことをお調べください。
土地面積に掛けるところの「建ぺい率%」と「容積率%」を入力すると、
最大の「建築面積」「延べ床面積」が算出されます。
これは、都市計画法上の最大値ということですので、これより小さい面積で建設するのも可です。
ここに、さらに「斜線制限」というのもあるのですが、ここでは考慮に入れておりません。

アプリの中ほどのところで、「階建て」を選択します。
「平屋」か「2階建て」か「3階建て」かの選択です。
次にリビングを含めた「部屋数」を入力してください。
※初期設定を「4」部屋としておりますが、それ以外の場合は、「3」や「5」などの数字を入力してください。

「リビング・ダイニング」
「キッチン」
「バス」
「トイレ」
は、ここでは「標準仕様」にて概算を算出します。
「見積もり詳細」のところで選択できます。

●「部屋数(子ども用、書斎、寝室、和室など)」
 1
 2
 3
 4
 5
 6
「リビング・ダイニング」を含めた部屋数を入力してください。
 
●断熱グレード(Ua値)
 0.87程度
 0.46程度
 0.3以下

●気密グレード(C値)
 1.0程度
 0.5程度
 0.3以下

●換気システム
 1種(ダクトレス全熱交換型)
 3種(機械排気のみ)

●耐震等級
 1(建築基準法の最低基準)
 2(等級1級の1.25倍の強度)
 3(等級1級の1.5倍の強度)

建築費の概算は、このように算出できます。
断熱性能の「Ua値(ユーエーチ)」や気密レベルの「C値(シーチ)」は、何のことだか分からない方もいるかもしれませんが、そのままで(標準仕様のままで)算出してみてください。
工事別の詳細ページのところで解説しています。
本見積りアプリでは、「断熱等級6(Ua値:0.46)」「気密グレード(C値:0.5)」「換気システム:第1種」「耐震等級3」を実装することを目指した想定としています。

「建築物」の基本部分は、「延べ床面積」で概算を出すことができますが、総合的な見積もりは、お住いの地域(求められる断熱性能の違い)、立地特性(周辺の交通量)、間取り・収納・外構などの個別条件によって変わってきます。

工事別にコストを算出することを「積算(せきさん)」と言います

本サイトでは、AからPの16の項目(最後のPは諸経費および手続き費です)に分けて、見積もりの明細を算出します。
それぞれの項目は工事単位にしても手続きにしても、それなりに大きなものです。
私は「資材の調達」と「原価計算」の仕事をしておりますので、細かいようですが、
見積もり計算の考え方を解説しておきます。

住宅の見積もりは、各項目で共通することですが、
➀原材料・部材費用 ②工賃(工事全般・造作にかかる人件費)・機械の使用料 ③管理コスト(住宅メーカーの営業コスト・事務経費・上乗せ利益など)
に分けられます。
重要なことなので繰り返しますが、
●「原材料・部材費用」「工賃・機械の使用料」「管理コスト」です。
時系列で言いますと、「仮設工事」から始まって、最後の「外構工事」まで、
「製造原価」というものは、すべてこの尺度で「原価計算」をします。
どの住宅メーカーでも、積算を担当する部隊がこのような算出を行っています。

たとえば「Bの基礎工事」だと、「コンクリートの使用量(立方メートル、立米(りゅうべい)とも言います)」「砕石の量」「配筋・コンクリート打設の職人の手配とその日数」「油圧ショベル・圧送ポンプ車のレンタル料」「鉄筋の本数」「型枠の数」「防湿シートの枚数(平方メートル)」などです。
「Cの大工工事」だと、「土台・柱・梁・桁・胴差」などの構造材の数、「根太・垂木・間柱・筋交い」などの羽柄材の数、「構造材の枚数」「プレカット費」「材木の運搬費」「大工の手間賃(工事期間の日数分)」「上棟時の建て方手伝い手間」「釘・ビス・テープ」「建て方のクレーン費」などです。

本サイトでは、「標準的な仕様」によって見積もりを作成しています。
「標準的でないもの」について、
●「立地や建物の個別条件」によって発生するものと
●「施主の要望(好み)」によって発生するもの
があります。
「立地や建物の個別条件によって発生する項目」は、オプションで追加できるようにしています。
また、施主の希望や好みによって「発生する項目」についても、オプションで追加できるようにしています。
施主が「同じ要望を出しても」住宅メーカーの営業マンによって受け取り方が違い、また「見積もりが異なる」こともあります。

いくつもある「単価」

1.原材料・部材費用 2.工賃・機械の使用料 3.管理コスト について説明します。

1「原材料・部材費用」は「材料メーカー」からの仕入れ価格・市況価格により変動します。
「材料単価」というと「固定的なもの」と思われる方もいるかもしれませんが、実は「単価」にはいくつかの種類があるので説明します。
まず、
●カタログ単価(略称 R:Retail Price)です。これは文字通り、メーカーでカタログに掲載したり、対外的に表示したりする単価です。
次に
●市況単価(略称 M:Market Price)です。これは市場で取引されている金額です。いろんな調査があるのですが、業界団体が定期的に
調査しているもの、調査会社が調べたもの、新聞に載っているものなど、さまざまです。
代表的なところでは、経済調査会の「積算資料」、建設物価調査会の「物価資料」があります。
最後に、
●「住宅メーカー」の実際の仕入れ単価(略称 B:Buying Price)です。
この3番目の「仕入れ単価」は、メーカーの仕入力によってかなり差が出ます。
もっとも差がつくところではないかと思います。その会社に勤める営業マンでも「実際に会社がいくらで仕入れているのか」は知らないと思います。
もちろん、営業マンでも「住宅の原価」については、ある程度知っているかと思いますが、会社から「この部材はこの金額で計上してください」と決まった数字を提供されているだけで、真実は「会社の奥のほう」に存在するはずです。

一般的に高い方から、
●カタログ単価 > 市況単価 > 仕入れ価格
が成り立ちます。

あと、原材料には「材料費のみ」で計算する場合と、「施工費(工賃)」を含めて計算される場合が
あります。後者を「材工共」と書いて「ざいこうとも」単価と呼びます。

次に、2の「工賃」ですが、
主に施工業者(職人さん・大工さん)の人件費になります。
こちらも市況や経済状況により変動します。工事に技術を要するかどうかのレベル、地域によって単価は異なります。
また単価の基本的な考え方は、1人1日いくら?です。1日は8時間で計算しますが、4時間で終わる仕事なら0.5。2人で3.5日かかる仕事なら、7×単価で計算します。

3「管理コスト」は、
建設の現場でかかる「管理コスト」と、住宅メーカー側の「管理コスト」(広告宣伝費や事務所経費です)とに分けて考える場合があります。後者は、損益計算書では「販売費および一般管理費」と呼ばれる部分です。

見積もりが高くなる原因

当サイトでは、「原材料コスト」や「宅地造成費」などの地域差をできるだけ見積もりに反映させるために、「都道府県および市区町村」をお聞きしています。
住宅メーカーは、材料メーカーとの仕入れ条件交渉によりコスト削減ができます。2の工賃については、工事工程や人割りの見直しにより削減できます。
住宅メーカーは、1と2コストを減らすほど「利益の上乗せ」ができます。これを「メーカーの企業努力」と呼びます
住宅メーカーの営業マンは、「1と2のコストを所与のものとして」、一定以上の利益を上乗せすることを求められます。営業マンは、その会社の「標準パッケージ」で建設ができる場合に、最も安い見積もりを出すことができます
見積もりが高くなる原因は、
「発注者にかかるコミュニケーションコスト」(個別要求や仕様の変更など)
「間取り・造作物に関する個別要因」(特別仕様など)
「土地にかかる個別要因」(土壌調査、家屋撤去、造成・地盤改良など)があります。

なお、建築費の概算として「坪単価」が使われることがありますが、
これは施主への説明用に、単に「建築費の総額」を延べ床面積の坪数で割ったものです。
住宅メーカーが、建物の原価を「坪単価」で算出することは絶対にありません。
しかも、建築費の中に「外構費用」が入っていなかったり、「電気工事代」が含まれていなかったりするので、注意が必要です。

施主の判断を迷わせる「見解の相違」について

このパートの最後に、「見解の相違」についての考え方を申し上げておきます。
「見解の相違」とは、専門家の間にもある意見の食い違いのことで、ときおり施主を迷わせてしまうことがあります。
「耐震等級は2が良いか3が良いか」「床下断熱は入れるべきかどうか?」とか、いろいろありますが、結論から言うと、「自分が立てる土地条件を勘案して、自分で決めてください」です。
たとえば、「南海トラフ地震」が懸念されている地域で住宅会社を経営されている専門家の方は、「耐震等級は3のほうが望ましい」と言います。これは、ある意味「当たり前」ですよね。地震があまり発生しない、地盤のしっかりした土地に家を建てようとする方だったら、また違った判断になるかと思います。
こういった、「住宅性能面」での基準の話は、特に意見が分かれがちです。
あくまで「自分の土地条件、自分の優先順位、価値観」に基づいて、決めていただければと思います。