不妊治療というと、多くの方が人工授精や体外受精をまず思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、体外受精は実際には不妊治療の最終段階に位置する治療法で、身体的な負担も大きく、費用面でもハードルが高いものです。
今回は、前回に引き続き不妊治療のステップについてお話ししますが、その最終段階である体外受精と顕微授精について詳しくご紹介します。
私自身も不妊治療の過程で体外受精を経験しましたので、その際の状況も体験談としてお伝えします。
不妊治療のステップとは?
不妊治療には一般的に以下のような5つのステップがあり、これらの治療ステップは医師と相談しながら適切な方法が進められます。
- ステップゼロ:検査
不妊の原因を調べるため、女性と男性それぞれに必要な検査を行います。 - ステップ1:タイミング法
排卵日を予測して夫婦生活を調整し、自然妊娠を目指します。 - ステップ2:排卵誘発剤
排卵を促す薬を使い、妊娠の可能性を高めます。 - ステップ3:人工授精(AIH)
採取した精子を洗浄・濃縮し、子宮内に直接注入して受精の確率を上げます。 - ステップ4:体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)
- 体外受精(IVF):採取した卵子と精子を体外で受精させ、受精卵を子宮に戻します。
- 顕微授精(ICSI):顕微鏡を使って精子を直接卵子に注入する方法で、精子の運動性が低い場合に適しています。
前編では人工授精までをお伝えしましたので、ここでは、ステップ4の体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)について、詳しく見ていきましょう。
体外受精(IVF)とは?
体外受精とは、卵子と精子を体外で受精させた後、受精卵を子宮に戻して妊娠を目指す治療法です。自然妊娠が難しい場合に行われ、高い成功率が期待できる一方で、身体的・経済的な負担が大きい治療法でもあります。
体外受精の治療のプロセスとは?
体外受精では個々の状況によって、薬の種類、スケジュール等が変わることはありますが、一般的には以下のようなプロセスを経て治療を進めていくことになります。
1. 前投薬:高温期4〜5日目頃に体外受精準備のため、黄体ホルモン製剤(ルトラール)を服用します。
2. 卵巣刺激:月経開始2、3日目から、注射や内服薬で卵胞を育てます。
3. モニタリング:超音波検査とホルモン検査で採卵日を決定します。卵胞の発育状況によっては数回の通院が必要になります。
4. 採卵:月経開始10〜14日目頃に採卵を行います。採卵には麻酔が使用されることもあります。
5.媒精:採取した卵子と精子を培養し、受精させます。
6. 胚培養:受精卵を2-6日間培養します。
7. 胚移植:良好な胚を子宮内に移植します。
8. 黄体補充:胚の着床と初期発生を補助するための薬を投与します。
9. 妊娠判定:採卵から14〜17日後に行います。
体外受精では、卵子と精子を採取して培養し、受精卵を子宮内に戻すまで、いくつものプロセスを経る必要があります。これらの工程には約1か月ほどかかるため、仕事と治療を両立するのが難しいと感じることもあるでしょう。
可能であれば、上司や同僚に事情を伝え、休みやすい環境を整えておくことも大切です。
体外受精のメリット・デメリット
体外受精は自然妊娠が困難なカップルにとって希望ともなる医療技術ですが、この治療法にはメリットとデメリットが存在します。以下では、どんなメリット・デメリットがあるのかをご紹介します。
【体外受精のメリット】
- 妊娠率の向上:
体外受精は一般不妊治療に比べて妊娠しやすく、早期に妊娠する可能性が高まります。 - 様々な不妊要因への対応:
女性の卵管性不妊や排卵障害、免疫性不妊にも効果的です。男性不妊症の場合でも妊娠の可能性が高まります。 - 染色体異常の可能性判断:
着床前診断(PGD)を行うことで、染色体異常のリスクを減らすことができます。
【体外受精のデメリット】
- 身体的負担:
卵巣刺激や採卵の過程で女性の体に負担がかかる可能性があります。 - 高額な費用:
治療費用が高額で、複数回の治療が必要になることもあります。 - 成功率の限界:
年齢や健康状態によって成功率が変動し、100%の成功を保証するものではありません。 - 多胎妊娠のリスク:
複数の胚を移植する場合、多胎妊娠の可能性が高まります。 - 精神的ストレス:
長期の治療や妊娠に至らない場合、精神的なストレスが増加する可能性があります。
体外受精を検討する際は、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、信頼できる医療機関や専門家と相談しながら、慎重に判断することが大切になってきます。
体外受精の成功率は?
体外受精の成功率は年齢によって大きく異なってきます。日本産科婦人科学会の調査によると、2018年の胚移植1回あたりの全体的な妊娠率は31.9%でした。しかし、年齢別に見ると成功率に大きな差があります。
体外受精の成功率(年齢別)
年齢 | 妊娠率(胚移植1回あたり) |
25歳~29歳 | 約40%以上 |
30歳~34歳 | 約35%~40% |
35歳~39歳 | 約25%~30% |
40歳~44歳 | 約10%~20% |
45歳~49歳 | 約5%未満 |
※出典:男性不妊治療ガイドより
体外受精は、人工授精などに比べると、成功率(妊娠率)の高い治療法と言えます。しかし、表からもわかるように、年齢が上がるにつれて成功率は低下していきます。特に35歳を過ぎると卵子の質が下がるため、妊娠率も低下する傾向にあると言われています。
体外受精は必ずしも1回で成功するわけではありません。累計で90%程度の方が4回目までに妊娠していますが、個人差も大きいということを理解しておかなければなりません。
顕微授精(ICSI)とは?
顕微授精とは、精子を顕微鏡で確認しながら卵子に直接注入して受精を行う治療法です。体外受精の一種であり、精子の数や運動性に問題がある場合に行われる治療法です。
顕微授精が適しているケースとは?
顕微授精は、特定の不妊症例や受精障害がある場合に適した治療法です。以下のようなケースで顕微授精が適していると考えられます。
1. 男性不妊症関連
- 重度の精子異常:
精子数が極めて少ない(乏精子症)、精子の運動性が低い(精子無力症)、精子の形が異常で、正常な形のものがほとんどない - 無精子症:
精巣内精子回収法で精子が採取可能な場合 - 抗精子抗体陽性:
男性が抗精子抗体を持っている場合
2. 受精障害
- 通常の体外受精で受精が起こらない場合
- 卵子の透明帯が固く、精子が卵子に侵入しづらい場合
- 精子が卵子の透明帯を通過する能力が不足している場合
3. その他
- 標準的な体外受精を繰り返しても妊娠しない場合
顕微授精は、男性不妊や受精障害など、妊娠の可能性が無い、もしくは、極めて低いと判断される夫婦を対象とする治療法です。単に女性の年齢が高いことや、卵子の数が少ないことだけを理由に顕微授精を選択することは必ずしも推奨されない、ということに注意が必要です。
※参考動画:顕微授精の流れ
顕微授精の成功率とは?
顕微授精の成功率は、様々な要因によって変動しますが、近年の顕微授精を用いた場合の妊娠率は、約50%〜70%と言われています。この数値は個々の年齢やクリニックの差によっても大きく変動します。
また、胚の種類によっても成功率に差があり、一般的に、新鮮胚(21.2%)よりも、凍結胚(36.9%)の移植のほうが妊娠率は高い傾向にあるようです。
【体外受精】私の体験談
私は人工授精を8回試みても妊娠に至らなかったため、次のステップとして体外受精へと進む決断をしました。
当時、通院ができる範囲内で体外受精を行える医療機関は限られており、まずは自分に合った病院を探すところからのスタートでした。
不妊治療では、医師や看護師との相性がとても重要です。疑問や不安を気軽に相談できる環境がないと、治療中のメンタルが不安定になりがちだと感じたからです。まずは信頼できる医師や病院を見つけることが大切だと感じました。
治療が始まると、体外受精特有のスケジュールの厳しさに驚きました。治療の日程は細かく決められており、「何日の何時までに病院へ来てください」と指示されることが多々あります。
夜中の11時に注射を打ちに病院へ行ったこともありました。治療は個々に合わせた「セミオーダーメイド」のような内容で、私は月に5〜6回通院しながら、超音波検査や採血、排卵を促す注射などの治療を受けました。
当時は仕事をしながら治療を受けていたため、時間の調整や休暇の取得が非常に大変だったことを覚えています。
体外受精のプロセスの中でも大変だったのは「採卵」です。卵胞から育った卵子を採取する過程ですが、私は採取する卵子の数が多かったため、麻酔を使用して手術(採卵)を受けました。
一部の医療機関では無麻酔で行われる場合もあると聞きましたが、痛みが苦手な方には麻酔下での処置を強くおすすめしたいと思います。不妊治療には痛みを伴うプロセスが多いため、できる限り苦痛を軽減してほしいと思うからです。
採卵の結果、複数の卵子を採取することができ、そのうち、11個の受精卵を凍結することができました。つまり、11回の移植チャンスを得たのです。
胚移植当日、移植の処置自体にはほとんど痛みも感じず、医師からは「状態の良い受精卵なので着床の確率が高い」と言われて臨んだものの、結果は撃沈。一度目の胚移植は失敗に終わってしまったのです。
当時、体外受精は保険適用外だったため、1回目の失敗時には、まるでこの世の終わりのような気持ちになってしまいました。たとえ凍結胚があと10個残っていても、1回の移植にかかる費用を考えると、あと数回が限界かもしれない…と感じたからです。
また、1度目の失敗がメンタルにも大きな衝撃を与え、次の移植へ踏み出すまでに時間がかかりました。
次もダメだったらどうしよう…そんなネガティブな感情が捨てきれず、なかなか2回目の移植を受ける気持ちになれず…。結果、治療は2クールお休みしてしまいました。
休んでいる間は、ストレスを溜め込まないことを意識し、お酒を楽しむなどリラックスすることに努めました。
そして、覚悟を決めて2回目の胚移植に挑んだところ、無事に着床、妊娠、出産へとつながったのです!不妊治療を始めてから約5年の歳月を経て、ようやく我が子を胸に抱くことができたのです。
この道のりは決して平坦ではなく、途中で何度も挫折しそうになりました。夫婦喧嘩も増え、金銭的な負担から両親に助けを求めたこともあります。それでも「赤ちゃんに会いたい」という夫婦共通の想いが、治療を続ける原動力になりました。
長男を出産した3年後、私は再び体外受精に挑み、次男を授かりました。このときは1回の胚移植で妊娠に成功。1人目の経験があったことで、治療に対する精神的な余裕があったのだと思います。
不妊治療は、頑張ったからと言って必ずしも結果がついてくるわけではありません。その過程で絶望することも多かったですし、何度もやめたいとも思いました。やはり年齢による壁についてはいつも考えさせられましたし、タイムリミットが近づいてくるという焦りは常にありました。
私の場合、自然妊娠へのこだわりから、人工授精を多く行ったり、結果的には少し遠回りをした形ではありましたが、自身が納得できるのであれば、それが最適解だったのではないかと思っています。
不妊治療は決して簡単な道のりではありませんが、時には休息を取りながら、信頼できる医療機関と二人三脚で歩んでいってください。そして何より、パートナーとの想いを大切に、お二人が納得できる選択をしていただければと思います。
→ 「【1】もしかして私、不妊かも? その気付きが不妊治療を考え始めるタイミング」はこちら
(執筆者:yuffy)